コンビニエンスストアで雑誌を立ち読みする振りをして《知識師》、《装飾師》、それに《傍観者》が表の歩道を眺めていた。
その前をのんびりした足取りで《いたずら師》が通り過ぎた。
「やっと来ましたね」
待ち兼ねたかの様に《装飾師》が声を発すると、
「この後五分待つのって、結構長いですよね」
と《知識師》が受け答え、時を数え始めた。
《知識師》達が仕事部屋に上がって行った時には《いたずら師》は何事も無かったかの様に自分の椅子に座っており、丁度青々しい汁を取り出すところだった。
朝の挨拶を交わし合い、自分の椅子を元の状態に戻し終わった《知識師》が、
「それ美味いの?」
と《いたずら師》に尋ねた。
「美味しいっす」
「健康のために飲んで居るんですか?」
今度は《装飾師》が尋ねた。
「仕事に拍車を掛けるためです」
と答えた《いたずら師》は、《知識師》が横を向いている間にその椅子の背を掴み、がたがたと揺らし始めた。
「やめーぃ」
《知識師》が抗議と諦念を半々に込めた言葉を発したと同時に、部屋の中に一陣の風が巻き上がり社長が入って来た。
「これ、ボクの田舎から送って来たの。美味しいからミンナで食べてよ」
皿に乗せられたイチゴを《装飾師》の机の上にそっと置いた社長に皆心から謝辞を述べた。
「いつもすいません」
「美味しそうですね、頂きます」
満足感に満ち満ちた表情を浮かべた社長は、くるっくるっと回り体の周辺に気流の渦を作りながら部屋を出て行った。
期せずしてこの時、《装飾師》と《傍観者》は心の中で全く同じ事を思っていた。
(この間と同じ質問を《いたずら師》がしそうですね)
(この間と同じ質問を《いたずら師》がするな)
この予想は粉う事無き的中し、《いたずら師》は問題の言葉を《知識師》に投げ掛けた。
「・・・・・・今の誰です?」
「だ・か・ら・・・社長だっつうの」
《いたずら師》の言動に振り回されるのは《知識師》の習性、否、慣例、いやいや特権で有るとまで言い切れるかもしれない。
こうしたやり取りをも吸収して知識の一端に加えて行って欲しいという願いを込めて、《傍観者》は《知識師》の顔を仰ぎ見た。
(はて?《知識師》はいつからこんな役回りになったんだろう?)
ふと、《傍観者》は疑問に思い考え込んだ。
(三か月前?四か月前かな?)
遥か昔、一世紀も時を遡った時点にその端緒が有るとは思いも依らない《傍観者》であった。
今日は念願の帆立御飯仕様の特製ネコまんまを手に入れご機嫌な《傍観者》を先頭に、一同は各々好みの弁当をぶら下げて四代目大臣を後にし、会社へと戻った。
終業時間までの午後の間は何をしているの?と疑問に思う人が居るかもしれないが、いや、そんな重箱の隅をつつく様な人はきっと居ないだろう、居ないと良いな・・・。
何の事は無い、午後は、ほぼ昼寝の時間である。
在宅勤務者が労働人口の過半数を超え、就業時間も数時間と言うこの時代に置いて、会社まで足を運び夕方までそこに詰めている《知識師》達は、勤め人の鏡であると言えるであろう。
だが、午後も働き詰めの状態は世間の風潮が許さず、十数年前から昼寝、つまり自由時間を採り入れた。
自由時間と言っても業務終了までは会社内に居る事が義務付けられていたが、会社が大好きな彼等にとっては造作も無い事であった。
《知識師》は底深い知識の奔流に呑み込まれた振りをしながら、うつらうつらしている。
《装飾師》は半透明のスクリーンを出現させ企画書を練っている振りをしながら、こっくりこっくりしている。
《傍観者》は傍観する振りをしながら寝ている。午前中との相違点は、両の眸が開いているか閉じているかだけである。
机に突っ伏して寝ないで、飽く迄仕事をしている振りをしながら睡眠を摂取するのは、彼等の社会人としての矜持がそうさせるのかもしれない。
《いたずら師》だけは寝ない。その代わりアメンボパグをひたすらやり続けている。言い換えれば、会社に居る間中仕事を遂行して居る事になり、本当に頭が下がる事、この上無い。
それぞれ有意義に自由時間を消費し、渋の街を包み込む人工太陽の日差しが陰り始め、心地よい疲労感が漂い始めると今日の業務が終了となった。
次にどの資格を取るか居残って色々と比較検討したいと言う《知識師》を部屋に残し、後の面々は地上へと降りて来た。
自由時間で十分に英気を養った《装飾師》は、すっきりした顔をしながら次の仕事場へと向かった。
今日も朝から仕事詰めだった《いたずら師》は、
「早く帰ってアメンボパグの続きをやろう」
と言いながら帰宅の途に着いた。
そんな二人を見送りながら《傍観者》は、資格の迷宮を彷徨っている《知識師》が居るはずのビルの最上階を見上げ、次いで明朝もお世話になるであろうコンビニエンスストアの店内を眺め、やがて静かに歩きだすと道を行き交う群衆の中に影を潜めて行った。

