《いたずら師》が会社へ着くと他の三人はもう既に自分の椅子に着席しており、いたずら、つまり朝一番の仕事が出来なかった。
少し気落ちした《いたずら師》は、
「おはよーすっ」
と言いながら、しぶしぶ自分の椅子へ座った。
何処から取り出したのか、青々しい汁を口にし、手持無沙汰に辺りを見回していた《いたずら師》に《知識師》が声を掛けた。
「本当にアクセク取るの?」
「取らないっす」
平然と答えた《いたずら師》に《装飾師》の驚きの声が被る。
「えっ?取らないんですか、この前取ろうかなって言ってたんじゃ・・・」
「嘘です」
「そうか、取らないのか、ふっふっふっ」
これは《知識師》である。
《傍観者》はそんな三人の様子を傍観しながら、
(しかし《いたずら師》は取らないって言って置きながら、こっそり取るっていう習性があるからな)
と思い、さらに、
(じゃあ、取るって言った場合は取らない・・・のかな?)
と模索し、取りあえず頭の中の傍観リストの《いたずら師》の項目に書き留めて置く事にした。
| 取らないときは取る 取る時は取らないってね |
唐突に《いたずら師》が提案した。
「いいね、行こう行こう」
《知識師》が阿吽の呼吸ですぐに返した。
「出向先の会社へ今日は行けない旨を連絡しなくちゃ」
《装飾師》まで大乗り気の塩梅である。
今では一年中完璧な空調で管理されている渋の谷の街だが、四季折々に連れ多少気温が変化する。
よって季節に関係なく花見が出来るのだが、やはりこの時期に行う人が多いのが現状である。
否も応も無く参加させられる事になった《傍観者》を尻目に三人は花見談議に没頭していった。
本日の業務が終了した後、四人は会社の前の坂道を下り、宮の下公園へ赴いた。
満開に花開いた桃色の衣装を纏った老木達をちらっと見やった《いたずら師》がこう言った。
「さあ、飲みに行きましょう」
「えっ?花を見るんじゃ・・・」
訝しげな表情の《傍観者》に他の三人の声が覆い被さる様に降って来た。
「見たでしょ、今」
「見た見た!」
「確かに見ましたね」
もうお酒の事で頭がいっぱいな三人は《傍観者》を引きずる様にしてさっさとその場を後にした。
居酒屋ダイニング四代目おだいどころに腰を落ち着けた一行は、《知識師》の次の言葉で乾杯をした。
「さっき部長に飲み放題のクーポンを貰ったから、今日は飲み飲み放~題」
「おお、飲み放題❤」
「部長に感謝ですね」
《知識師》は無類の焼酎好きである。小豆焼酎とかを進んで試すチャレンジャーでもある。
《装飾師》はとにかくビール一筋で、ビールさえあれば他は何もいらない。
《いたずら師》jは何でも飲み、飲み放題という言葉が大好きである。
《傍観者》はお酒が飲めないので、ホットミルクをちびちびと舐めていた。
《知識師》の熱の入った蘊蓄に耳を傾けたり、《装飾師》の零したビールの後片付けをしたり、《いたずら師》のもう何度目かになる「三十杯はイケますよ」という言葉に「はいはい、今十七杯目ね」と返したり、一人素面の《傍観者》はてんてこ舞いだった。
まさにネコの手も借りたい状態だったが、もう既に借りている事に気付かない《傍観者》であった。
「そうだ、余った料理持って帰ろう」
徐にビニール袋を取り出し料理を詰め込み始めた《いたずら師》に、
「お店の人に見つからない様にしなよ」
と《知識師》が囁き、飲み会は終了となった。
「お疲れでぇ~す」
「お疲れ・・・さま・・・れす」
「三十杯はイケますって」
皆、自分勝手な挨拶を交わし合い街中へ消えて行った。
酔っ払い軍団からやっと解放された《傍観者》は、「ふぅー」と一息付き、宮の下公園の方を仰ぎ見た。
(もっと花を見たかったのに・・・)
ヒゲの先に着いたミルクを前脚で掃除しながら《傍観者》はそう思い、綺麗になったヒゲに満足したのか、やがて何処ともなく闇に紛れて行った。
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