ここ最近いたずら、つまり朝一番の仕事が思う様に出来なくて鬱憤が溜まっていた《いたずら師》は、今日こそはという強固な意志とともに会社へ足を踏み入れた。
誰もいない部屋を見回して顔面にはち切れそうな笑みを浮かべた《いたずら師》は、まず《知識師》の椅子に手を伸ばした。
丁寧な手付きで椅子の高さを一番上まで上げ、《装飾師》と《傍観者》の椅子へも同じ様に仕事を施した《いたずら師》は、その出来具合に満足したのか一つ大きく頷いた。
《装飾師》と《傍観者》と連れ立って部屋に入って来た《知識師》は、一人ほくそ笑む《いたずら師》の顔を見た瞬間に(あっ、やられたな)と思い、口ではこう言った。
「もっと早く来ようかな」
その言葉を聞いた途端に曇り出した《いたずら師》の表情にいち早く気付いた《装飾師》が、
「やはり《いたずら師》が最初に会社へ来た方が良いんじゃないですか?」
と穏やかに発言し、《傍観者》も、
「そうそう、その方が良いよ」
と続けた。
「そっか・・・」
納得した様子の《知識師》に安心したのか、《いたずら師》に笑顔が戻って来た。
そんな《いたずら師》を眺め3人は(これからは《いたずら師》より早く会社へ着かない様に気を付けなくちゃ)と心に固く誓ったのであった。
| 《いたずら師》より 先に着いちゃダメってね |
《知識師》達のそんな心中を知ってか知らずか、《いたずら師》は自分の顔の前に半透明のスクリーンを出現させ、アメンボパグを始めようとしていた。
アメンボパグとは何ぞや?
アメンボパグとは株式会社サイバーエージェントルマンが運営するWebサイト上のサービスである。
仮想空間で自由にチャットなどが出来るこのサイトに《いたずら師》と《知識師》は以前から参加しており、《装飾師》と《傍観者》もつい先日これに加わる様になった。
この仮想空間、人呼んで「彼の地」の事は、また別の機会にでも語るとし、今は渋の谷の街「此の地」での出来事に戻るとしよう。
「部長に見つからない様にしなよ、ばればれだけど」
《知識師》の忠告に《いたずら師》がおざなりな返事を返した。
「うぃーすっ」
「今日は、ぱっとサイゼリヤに行きましょう」
午前中アメンボパグを堪能し、元気いっぱいの《いたずら師》の提案に、
「ぱっとサイゼリヤか・・・、たまには良いか」
と《知識師》が賛同し、皆でそこへ食事に行く事になった。
《知識師》はイカの墨入りスパゲッティを、《装飾師》は森のきのこのスパゲッティを、《いたずら師》はバルマ風スパゲッティの大盛を、《傍観者》はネコまんまスパゲッティを選んだ。
ふと《傍観者》が気が付くと、三人ともワインまで注文していた。
(大丈夫かな・・・)
《傍観者》の心配が的中したのか、まず何でも飲める筈の《いたずら師》が《知識師》にこう言った。
「もう飲めないっす。飲んで下さい」
それを見た《装飾師》も、
「僕ももう飲めないですね、後は《知識師》に任せます」
と続けた。
かくして《知識師》の前にワイングラスが三個並んだ。
「何で三「杯も・・・」
と言いながらも全部飲みほした《知識師》の顔は赤く染まり、忽ち眼つきがトロンとしてきた。
すっかりほろ酔い気分で会社へ向かう《知識師》の頭の上に、三「人はそれぞれ勝手な音符を想像して楽しんでいた事はここだけの秘密である。
「あれは、ドですね」
「ミじゃないですか?」
「絶対、ラだよ」
まったりとした(特に《知識師》にとって)時間が経ち、斜めに差し込む人工太陽の日差しが弱まり始めた頃、業務は終了となった。
昼間のワインが効いているのか《知識師》は今日は居残りをしないで帰る事にしたらしい。
揃って地上へ降りて来た面々だが、まず《知識師》が、
「お疲れ様です」
と別れの挨拶を口にすると、他の三「人はこう返した。
「お疲れっす、あまり飲みすぎない様に」
「お疲れ様です、昼間飲みすぎましたね」
「飲みすぎだな・・・」
何か言いたそうな《知識師》をその場に残し皆それぞれの方角へと散会した。
十数歩脚を進めた《傍観者》が振り向くと、以外にしっかりした足取りで小さくなって行く《知識師》の後ろ姿が眼に入った。
(あれなら大丈夫そうだな)
いつの間に付け替えたのか、前を向いた《傍観者》のヒゲはプライベート用のそれに取り替わっており、昼間食べた熱々のネコまんまスパゲッティで痛めた舌を気にしながらこう思った。
(何で熱々の料理を食べると舌を火傷しちゃうんだろう、不思議だな?)
恐らく他の者はその理由が分かってると思うが、一人合点がいかない《傍観者》は頸を捻り捻り歩を進め、人混みの中へと欠き消えて行った。

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