いつもの就業開始時間よりだいぶ早く会社へ着いた《装飾師》は、溜まっている仕事を片付けるために眼の前に企画書を展開し、早速それに執りかかった。
邪魔する物が誰もいない部屋の中で黙々と企画書の作成に励んでいた《装飾師》の耳に、やがて朝の挨拶が飛び込んできた。
「お早うございます」
「おはよーすっ」
《知識師》と《いたずら師》の姿を認め、朝の挨拶を返した《装飾師》は、いつの間にか隣りの席に座っていた《傍観者》に気付き、心臓が止まるかと思った。
《傍観者》は何故か脚音がしないので、知らない間に傍にいる事が良くあるのだった。
「もう仕事してる!」
驚きを含んだ調子の《いたずら師》の言葉に《知識師》が続けた。
「仕事忙しそうですね。ところで・・・取りましたよ、パワフルポイント」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で見つめ合う《いたずら師》と《知識師》の視線の交差する辺りに激しい火花が散るのを見てしまった《傍観者》は、その勢いに呑み込まれ、知らず知らずの内に背中の毛を逆立てていた。
《知識師》の背中に激しく羽ばたく茶色い羽を、そして《いたずら師》の背中にも同じ様に激しく羽ばたく黒い羽を《傍観者》は見たような気がしたが、きっとそれは気のせいだろう。
ふと《傍観者》が気付くと二人はいつもの様子に戻っており、《装飾師》が《知識師》にこう問うた。
「たしか、《知識師》はこの後さらにアクセクかアウトルックルックこんにちはを取るって言ってましたよね?」
「そうなんです。その他にもITパスポートサイズかスーパー簿記も如何しようか考え中です」
「えっ、そんなに!」
「その以外にも、フェレット訓練士や、きき焼酎師の資格も気になってるし・・・」
声も無い三人を尻目に情熱を込めた《知識師》の独白はまだまだ続くのであった・・・。
お昼になり四代目大臣でお弁当を買って会社へ戻って来た四人は、電子レンジで二人分づつ温めることにした。
この電子レンジは、おかず、おかず、ご飯、ご飯と四個積み上げると丁度入る大きさなのであった。
「そう言えば、これも曾爺さんから聞いたんですけど・・・」
《知識師》の曾爺さんは確か百三十歳を超えている筈だが未だ健在で、日々精力的に歩き回っているらしい。
なんでも今の《知識師》と同じ位の年に此処の会社で働いていた事があるらしく、たまに昔語りで色々な事を教えてくれるそうだ。
「百年位前この電子レンジに、まっくろくろすけが出たそうです」
「まっくろくろすけ?」
「それって、どんなの?」
《知識師》が発した謎の名前に皆、首を捻った。
「曾爺さんは詳しく教えてくれなかったので、だけど当時は大変な騒ぎになるとこだったらしいですよ」
「黒いのかな?」
「たぶん黒いんじゃ・・・」
三人の視線が自然と《傍観者》に集まった。
慌てて首を振った《傍観者》は、
「きっと恐ろしそうな生き物じゃない?」
と言って鉾先をかわした。
「恐ろしいのかな?」
「そうかも」
「黒くて、しかも恐ろしいなんて!」
四人はそれぞれ恐ろしそうな姿を想像して少し怖くなった。
天空に浮かぶ太陽の人工の日差しが弱まり始め、業務は平穏無事に終了した。
昼間の話が頭に残っているのか、四人はさっさと帰り支度を始めた。
「お疲れっす」
「お疲れ様です」
挨拶を交わし合い三人と別れた《傍観者》は、ヒゲを付け替えながらこう思った。
(まっくろくろすけか、黒いなら会ってみたいな)
他の三人はいざ知らず、《傍観者》だけは、まっくろくろすけに少なからず親近感を覚えていたのだった。
