今日もやるぞー(いたずらを)と意気揚々と会社へ朝一番にやって来た《いたずら師》は、自分の椅子以外の三脚の椅子に狙いを定め、その手を伸ばした。
流れるような華麗な手付きで次々と椅子の高さを限界まで上げて行った《いたずら師》は、最後に見えない観客に向かって一礼をして自身の席に深々と腰を落とした。
《いたずら師》がこの部屋に顔を出してから、何故かきっかり五分後に折り重なる様に入室して来た《知識師》達は、朝の挨拶もそこそこに以下の発言をした。
「やられたー」
この前と同じ台詞だ、《知識師》よ。
「やられましたね」
だから同じ台詞だってば、《装飾師》よ。
「油断も隙も無いったら無いな」
日本語がおかしいぞ、《傍観者》よ。
だが、そんな不自然な台詞には一切気付かず《いたずら師》は充足感を顔一杯に噴出させ、にこにこしていた。
「皆さん、お早う御座います」
柔らかな物腰にクールさを加味したシャープな眼鏡を掛けた部長が部屋に入って来て、二の句を告げた。
「今日から、就業中のアメンボパグの使用を許可します。但し・・・」
シャープな眼鏡がきらりと光り、周りの温度が急激に下がった。
「《いたずら師》だけです。他の人は許可しませんからその積りでいて下さい」
「分かりました」
《いたずら師》が鯱張って答えた。
然しもの《いたずら師》も部長にだけは頭が上がらない。
「これはアメンボパグが《いたずら師》の職務に大変有効で有ると判断した私だけの独断なので、決して社長には見付からない様にして下さい」
「はい、気を付けます」
殊勝に頷く《いたずら師》を一瞥し、部長は颯爽と部屋を後にした。
| アメンボパグ・・・ こんなんじゃない様な・・・ |
「まさか、こんな事になるなんて・・・」
「やりましたね、《いたずら師》」
「これでますます仕事の手腕に磨きがかかるな」
驚愕や賛辞の言葉に、はにかんだ《いたずら師》は照れ隠しに真面目な表情を取り繕っていたが、つい口元がにやついてしまうのを《傍観者》だけは目敏く見逃さなかった。
やがて、《知識師》が眼の前に半透明のスクリーンを出現させ、深遠な知識の大海原へと旅立って行った。
《装飾師》は新型パワースーツの軽量化に伴いフォルムに手を入れるべく、頭を悩ませ始めた。
《いたずら師》は威風堂々とアメンボパグを起動させると「彼の地」へと我が身を投じて行った。
《傍観者》はそんな3人の様子を何気無い振りをして傍観し始めた。
つまり、外見上は今までと何等変わる事無く、静かに刻が刻まれて行った。
「ごめんなさい、今日は帆立御飯切らしちゃってるのよ」
皆とお昼御飯を買いに来た《傍観者》に四代目大臣の四代目女将が無情にも言い放った。
「そっ、そんな!」
消え入りそうな声をやっと絞り出し、ショックのため血の気が引いた顔を晒した《傍観者》だったが、そこに居る者は誰もその変貌に気がつかなかった。
「明日はちゃんと用意して置くからね」
「はーい」
《いたずら師》達は元気に返事をするとおかずを選びだした。
皆とは正反対に意気消沈した《傍観者》は、いつもはピンと伸びた長い尻尾の先端が地面に着くかと言う程に、残念感を露わにしていた。
特製ネコまんま(普通の白いご飯)を手にした《傍観者》は会社までの道のりがいつもの何倍にも感じられ、事実、他の3人よりも遅れがちだった。
会社へ戻り自分の席に着いてからも食が進まないのか、一口食べては休み、二口食べては休みしていた《傍観者》が食べ終わったのは、一番最後であった。
だが、大抵の場合、《傍観者》が食べ終わるのは一番最後なので、これは見慣れた風景の一つだと言えよう。
窓から差し込む半球型のドーム越しの人工太陽の日差しが四人の横顔を優しく照らし始めると、今日の業務が終了となった。
「さあ、帰りましょう」
本日絶好調の《いたずら師》が勢い良く立ち上がり、《知識師》と《装飾師》もそれに続けとばかりに腰を上げたが、《傍観者》だけは意気が揚がらないのか、のたのたと帰り支度を始めた。
「お疲れっす❤」
「お疲れ様でーす、また明日」
「お疲れ様です」
地上へ降りて来た一行は元気に挨拶を交わし合いながら、蜘蛛の子を散らす様にあちらへこちらへと去って行ってしまった。
《傍観者》は気分を入れ替えるために果敢にも「ヒゲ付け替えトリプルアクセル」に挑戦し、それに成功すると胸を張って歩き出した。
ただ、いくら元気が出た振りをしても《傍観者》は頭の中では(帆立御飯、帆立御飯・・・)と連呼しており、歩道橋に昇る時についうっかり「どっこいしょ」と言ってしまったため、それ以降文言が(どっこいしょ、どっこいしょ・・・)と変わっていた事には終ぞ気が付かなかった。
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