ひっそりと静まり返った小さな橋の下で目覚めた《傍観者》は、寝床にしている小さな箱から出て来ると傍に置いてある小さな椅子に座った。
前脚で入念に顔を洗い、ヒゲの先端まで形を整え終わった《傍観者》は椅子を降り、喉の渇きを癒すために小さな川へと向かった。
水面に顔を近づけて今まさに水を飲もうとした刹那、背後にばさばさと羽音がし《いたずら師》が現れた。
「ご馳走してやるから、俺様の城に来るのだ」
そう言った《いたずら師》は、橋の上を駆け回ったり、そこから飛び降りたり、一頻りどたばたした後、黒い羽を一振りし頭上高く舞い上がるとその姿を消した。
「全く《いたずら師》はいつも唐突だな」
やれやれと首を振った《傍観者》は、小さな川から水を二口飲むと《いたずら師》の家へと向かった。
重厚なドアを開けて部屋の中へ入って行った《傍観者》にお約束のシャンペン・シャワーが浴びせ掛けられた。
「別に何のお祝いでもないんだよね」
「そうだ、良く分かったな?」
と答えた《いたずら師》は、周りを見回しこう続けた。
「部屋の模様替えをしたぞ。どうだ、俺様にぴったりの豪華な意匠だろう」
なるほど確かに部屋の様子が前と違っていた。
以前は無秩序に置かれていたカラフルな四角い置き物が、大きな正方形を形作る様に綺麗に並べられ、同じ様に無秩序に床に転がっていた宝石達も飾り棚の上に整然と鎮座ましましていた。
そして部屋の真ん中にあった大きなダイヤモンドは隅の方に追いやられており、その代わりにそこには、なんと、宝船がでんと置かれていた。
「宝船・・・」
「ほんの特注品だ、有り余っている金の一部を・・・」
宝船の中に積まれたきらきらと輝く宝の山に目を奪われていた《傍観者》には、《いたずら師》の声は半分しか届いていなかった。
《傍観者》は何故かきらきらと輝く物に弱く、、特に本物の輝きを放つ代物に出会うと我を忘れてしまうのであった。
ふと《傍観者》が気が付くと《いたずら師》の独白はまだ続いていた。
「前に特注で作らせたタイムマシンを間違って売ってしまったのだ・・・」
いつもの自信満々な様子は影を潜め、代わりに悔しさと悲しみが入り混じった表情が《いたずら師》の顔を覆い、その頭上には何かもやもやとしたモノが浮かび上がっていた。
やがて気を取り直した《いたずら師》は、
「忘れてた!ご馳走するんだったな」
と言いながら、豪華なテーブルの上に活きの良さそうな魚を2匹並べた。
魚と侮るなかれ、《傍観者》にとって何物にも代えがたいご馳走とは、まさにそれなのであった。
「わーい❤二匹も!」
一匹は俺様のだ、と《いたずら師》が言う間も与えず《傍観者》は二匹の魚ともぺろりと食いらげてしまった。
「俺様の分が・・・」
空になった皿を見やり、続いて満腹そうな《傍観者》に視線を向けた《いたずら師》は、
「まあ、良いか。俺様は大金持ちだからな」
と鷹揚な態度を見せた。
「色々な処へ出掛けるのだ、《傍観者》よ。これは彼の地の王様としての俺様の助言だ」
「うん、そうするよ。今日はありがとう」
長い尻尾をピンと立て一振りしてそれに答えた《傍観者》は《いたずら師》の家を辞去する事にした。
「そうそう、アメをあげに行かなくちゃ」
森へと入って行った《傍観者》は彼の地の番人より先んじて口を開いた。
「アメくれよ~、でしょ」
「先に言ったらダメぞよ、アメくれよ~」
アメを貰った彼の地の番人は、またまた前のとは違う小さな椅子を《傍観者》に渡した。
「椅子ばっかしだね」
森の奥にふわふわと小さくなって行く彼の地の番人に《傍観者》の声が届いていたかどうかは定かではない。
小さな橋の下の寝床へと戻って来た《傍観者》は今日貰った小さな椅子を並べ終えると、《いたずら師》の家にあった宝船を思い浮かべた。
(あの宝の山に埋もれて昼寝が出来たら、どんな気分だろうな・・・)
小さな箱の中で丸くなってそんな空想を楽しんでいた《傍観者》だったが、段々とその頭の中の風景は薄れ始め、やがて辺りは静けさに包まれて行った。
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