いつもの様に朝一番に《知識師》の椅子へいたずらをしようと、仕事熱心な《いたずら師》が会社へやって来たが、部屋の中に《知識師》の姿を認めその足を止めた。
どうしようか逡巡している《いたずら師》の後ろから《装飾師》と《傍観者》もやって来て、三人は席に着いた。
決意を込めた表情の《知識師》が三人の顔を順繰りに見ながらこう言った。
「パワフルポイント、来週取りますよ。これで《いたずら師》に追い付くし・・・」
「でも先に取った方が偉いっすよね」
《いたずら師》が受けて立った。
「二人とも凄いですね、本当に」
《装飾師》の称賛の言葉を聞き、満足そうな表情の二人を眺めながら《傍観者》は、
(この二人は本当に、本当に頑張るな。《知識師》はともかく、《いたずら師》は一体いつNOSの試験勉強をしていたんだろう?)
と思ったが、その言葉は彼が《傍観者》故に口に出されることは無く、胸の奥底へと仕舞いこまれていった。
「この後は、NOSのAcceqq(アクセク)2107かOutlooklookこんにちは(アウトルックルックこんにちは)2107を取ろうかどうしようか、迷ってんですよ」
「まだ資格を取るんですか!」
驚いた《装飾師》の声が響き渡る。
「じゃあ、俺もアクセク取ろうかな、アウトルックルックこんにちはなんか取っても意味無いし」
そう言った《いたずら師》に《知識師》は静かに闘志を燃やし、《装飾師》はますます驚嘆の念を深めていった。
だが、《傍観者》だけは、
(これは《いたずら師》の家に代々受け継がれていると言われている、幻の秘儀のいたずら言葉じゃないかな)
と心密かに思い、《いたずら師》の横顔をそっと盗み見たが、その判断は付かなかった。
お昼になると《いたずら師》が皆にこう言った。
「今日は青の山大学へ食べに行きましょう」
「青の山大学?うーん、そう言えば曾爺さんが昔、青の山大学でお昼を食べた事があるって言ってたっけ」
《知識師》の言葉を聞き、今日のお昼は青の山大学で食べることになった。
会社から歩いて数分程の処にある青の山大学へ着くと、すっと入って行った三人とは違い《傍観者》だけは(自分だけ撮み出されるじゃないかな)と、おっかなびっくりだったがその心配は杞憂に終わった。
正式名称を青の山学院大学と云うこの大学は、老巧化に伴い二年前から順次建て直しが行われており、歴史を感じさせる意匠が施された建物と近代的な外観の建物が混在している。
「確か、七号館の地下って聞いたような・・・」
うろ覚えながらも《知識師》の情報は正確で、七号館と表記された古めかしい建物の地下に降りて行くと食堂が広がっていた。
そこには大学生と思しき姿や、初等部、中等部、はたまたスーツ姿の男女など、種々雑多な人々が屯していた。
「がっつり定食、大盛りで」
と叫んだ《いたずら師》に、
「これこれ、肉そば肉そば❤」
「じゃあ僕はタンメンにします」
と《知識師》と《装飾師》の声が続く。
《傍観者》は迷うことなくネコまんま定食だ(こんなのまであるのか!)。
一心不乱にがっつり定食を貪る《いたずら師》を前にしながら、
「肉そば、美味いなぁ」
「タンメンもイケますよ、安いし」
と《知識師》と《装飾師》の味チェックが始まった。
「あー美味しかった」
「会社へ戻るの、面倒くさいな」
まだ建て替え途中の校舎棟の横を通り過ぎながら、口調とは裏腹に会社へ向かう四人の足取りは軽かった。何故なら、皆会社が大好きだったからである。
傾いた人工太陽の柔らかな日差しが、半球型のドーム越しに会社の窓を照らし始めると同時に今日の業務が終了となる。
今日は《知識師》は居残りをしないらしく、四人一緒に地上へと降りた。
「お疲れ様です」
「お疲れっす」
思い思いの方向へと脚を向けた三人を見送りながら《傍観者》は、そそくさと仕事用のヒゲとプライベート用のヒゲを付け替え、そしてそれから四代目大臣の方角を見やった。
(やっぱりネコまんまは四代目大臣のが一番だな、よし、明日は絶対に四代目女将の特製ネコまんまを食べよう)
そう思いながら歩き出した《傍観者》の姿は人波に呑まれ、やがていつの間にか消えていった。
0 件のコメント:
コメントを投稿