《傍観者》が目覚めると、そこは小さな橋の下の見覚えのある小さな箱の中だった。
たっぷりと日が暮れた暗闇の中で《傍観者》が伸びをしようとしたとき、計っていたかのように現れた《知識師》がこう言った。
「今日は僕の家に連れてってあげるよ」
「俺様の城に先に連れて行こうと思ってたのに」
僅差で現れた《いたずら師》が黒い羽をバタつかせながら喚いたが、《知識師》の
「先に僕の家に行って、その後、《いたずら師》の家に行けばいいよ」という言葉に、しぶしぶ矛先を収めた。
悠々と空を飛んでいく二人に遅れまじと、長い尻尾を振りながら一生懸命走り続けた《傍観者》は、《知識師》の家に入ると思わず、
「うわぁ」
と声をあげた。
そこは毛脚の長い絨毯が敷き詰められたとても広いお屋敷だった。
赤々と炎を揺らす暖炉に、天蓋付きのベット、高級そうなピアノに猫脚のバスタブまである。
前脚で絨毯のふかふかの感触を味わっていた《傍観者》に
「その内、和風の家にしてみるつもりなんだ」
と《知識師》が言う。
《知識師》の家で我が物顔でドタバタと走り回っていた《いたずら師》が
「今度は俺様の城へ来るのだ。俺様の城はもっともっと金が掛かっているぞ」
と横槍を入れた。
黒い羽をバサバサと揺らしながら空を飛んでいく《いたずら師》と、茶色い羽をパタパタさせながら飛んでいく《知識師》を追いかけて、またまた《傍観者》はひたすら草原を駆けていった。
家の前で待っていた二人にやっと追い付いた《傍観者》に
「さあ、俺様の城をとくと堪能するがよい」
と《いたずら師》が叫ぶ。
恐る恐る家の中に入った《傍観者》は、思わず、
「なに、これ?」
と声をあげた。
そこは《知識師》の家と負けず劣らずとても広いお屋敷だったが、部屋中にカラフルな四角い置き物が無秩序に置かれ、やたら椅子ばかりが多い部屋だった。
よく見るとそれらの間にとても大きな宝石が無造作に転がっており、部屋の真ん中にはひと際大きなダイヤモンドが鎮座ましましていた。
「そのダイヤはとても高くて、まさに俺様にぴったりの代物だな」
と嘯く《いたずら師》の声は《傍観者》の耳には届いていなかった。
なぜならその時《傍観者》は、一抱えもあるギラギラと輝くダイヤモンドと、同じように眼をギラギラとさせながら、にらめっこの真っ最中だったからである。
いつまでも眼をギラつかせている《傍観者》に痺れを切らしたのか、
「さあ、次は《装飾師》の家に行こうよ」
と《知識師》が言った。
(また、走るのか)と思いながら2人の影をを追い求めて駆け続けていた《傍観者》は、彼らがある家へ向かって高度を下げ始めたのを眼にしてほっとした。
「ようこそ僕の家へ、《装飾師》です。よろしくね」
三人を出迎えてくれた《装飾師》の姿を見て、《傍観者》は声にならない声をあげた。
(なんて綺麗な生き物なんだ!)
黄金色に輝く細身の体に、墨痕鮮やかな縞を持つ《装飾師》は、透き通るような薄い羽をフルフル震わせながら三人を家の中に迎え入れた。
そこはあまり広くなく家具も少ししかないが、綺麗に片付けられた清潔そうな部屋だった。
「まだ、何もなくて・・・」
「生まれたばかりだもの、しょうがないよ」
「俺様の城が一番立派だな」
「色々揃えたいとは思っているんですが・・・」
「大丈夫だよ、知らない間に集まるもんだから」
「今度はダイヤの城でも建ててやるか」
三人がそんな会話を交わしている間《傍観者》は、《いたずら師》の家にあったダイヤを自分の寝床に置いた様を想像して悦に入っていた。
「そうだ、良いことを教えてあげるよ」
《知識師》が手にした厚い本を捲りながら続けた。
「これで三人の家や、今いる処へ好きな時に瞬間的に移動できるようになるし、そこから自分の家にもすぐ移動出来るようになるよ」
「本当に?」
「本当だよ」
教えられた通りに三人と別れ瞬間的に自分の寝床へ戻ってきた《傍観者》は、
(お金が貯まったら、この小さな箱の中に渇いた干し草をいっぱい敷き詰めるんだ)
と思いながら深い眠りに落ちって言った。
ピクッピクッと動いていた尖った耳がその動きを止めた頃、《傍観者》は大きなダイヤの夢を視ていた。
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