ピノコの耳がぴくっと動いた。
相前後して《傍観者》が目を覚ました。
二匹は同じ様に体全体を使って伸びをすると、挨拶を交わし合った。
「お早う、ピノコ」
「ニィ」
小さな橋の袂から這い出て来た《傍観者》は、小川の縁へ行きそっと水面を覗いて見た。
煌々と照らす月明かりを反射している川面に《傍観者》の黒い影が映った、と思うのも束の間、すぐ隣にピノコの影が顔を覗かせた。
「ミルクが欲しいんだね」
受け皿にミルクを入れてピノコの前に置いてあげた《傍観者》は、先日漏れ聞こえて来た会話を思い出していた。
それは森の中の公園を散歩している時に通りすがりの人達が話していた事で、どうやらフリーマーケットが開かれている場所が有るらしいと言う内容であった。
広大なこの森の中で《傍観者》が行った事が有るのは、人々が屯する公園と彼の地の番人が現れるエリアだけである。
「ピノコ、今日はフリマを探しに行こう」
ミルクを飲み終わったピノコが、ニィと鳴いた。
森へやって来た《傍観者》とピノコは程無くして、『フリマ、こっちだよ~』と書かれた看板を見付けた。
「こんなの有ったかな?」
見覚えの無い看板を前にして戸惑いながらも《傍観者》達は森の奥へと進んで行った。
一際鬱蒼と茂った樹木群を抜けると大勢の人々で盛況なフリマの近景が《傍観者》の眼に飛び込んで来た。
「うわー!本当に有った」
駆け出しそうな心を抑えた《傍観者》はまず手前端から覗いて見る事にした。
そこのスペースには『メリーのフリマ』と書かれた看板が立ち、横に居た女の子が声を掛けて来た。
「みてってよ」
シャツやリュックやサンダルが並べられているのを見る限り、衣服関連のフリマみたいである。
「うーん、必要無いかな」
《傍観者》は次へと脚を向けた。その後をピノコがちょこちょこと付いて来る。
次のスペースには『源の字のフリマ』と書かれた看板が立ち、だが横に佇むお兄さん風の男は終始無言だった。
「・・・・・・」
ここには冷蔵庫やガスコンロ、レンジ等、主に電化製品が並べられていた。
「うーん、ここのも必要ないな。電気も来て無いしね」
《傍観者》は次へと脚を向けた。その後をピノコがひょこひょこと付いて来る。
次のスペースには『森森のフリマ』と書かれた看板が立ち、傍に居たヒゲを生やしたおじさんがこう言った。
「みどりっていいよね」
鉢植えばかりが種々雑多に飾られており、スミレや菜の花など良く知られた物の他に、フェニックスロベレニーやエレファンティペスと言う名の《傍観者》が聞いた事も無い物も数多く置いてあった。
ふと、一隅に置かれた小さな鉢植えに興味を引かれた《傍観者》は近付いて行き、繁々と眺めた。
白っぽい葉っぱの周りを緑色の縁取りが覆った、カミーラと書かれた名札が付けられた鉢植えを一目見て気に入った《傍観者》は、なけなしのお金を叩いて購入する事にした。
「買い物も偶には良いよね」
《傍観者》の独り言にピノコが答えた。
「ニィ」
最後のスペースには『アメのいちぞく のぶのぶのフリマ』と書かれた看板が立ち、若いのか若くないのか良く判らない男が椅子に腰かけて寝ていた。
「ZZZZZZ・・・」
他と違い一風変わった物が見受けられるこの場所には、きのこの椅子やのぼり、はたまた街灯まで売っていた。
「きのこの椅子はちょっと良いけど、貰った椅子が沢山有るしね」
《傍観者》とピノコはのんびりと歩きながら、もう一回それぞれの出店を覗き、満足した素振りでフリマの会場を後にした。
「さて、折角森へ来て居るんだから番人さんの処へ寄って行こう」
フリマの会場から少し離れた彼の地の番人のエリアに到着すると、案の定ふわふわと漂い出て来た影が現れた。
「アメくれよ~」
《傍観者》が二十個のアメを渡すと番人は、お返しに小さな椅子を取り出した。
「椅子ばっかり・・・ところで番人さんはアメのいちぞくと何か関係有るの?」
「アメのいちぞくを統べる者こそ、わしぞよ」
「へえー、そうなんだ。・・・もしかして今まで貰った椅子はフリマで売れ残った物じゃ・・・」
「あっ電話が鳴っているぞよ~」
番人はあらぬ方向に眼を遣ると、明らかに何も聞こえない方角へと一直線に去って行ってしまった。
小さな橋の下の寝床へと帰って来た《傍観者》はピノコの為にミルクの皿を用意してから、沢山有る椅子の中から安定の良さそうな物を一脚選び、その上にカミーラの鉢植えをそっと置いた。
鉢植えに水を遣り終えた《傍観者》が向き直ると、疲れたのかピノコは小さな箱の中で既に丸くなっていた。
いつも寝床にしている椅子の上に移った《傍観者》は背中を丸め、カミーラの水滴に濡れた葉っぱを眺めながら夢の世界を彷徨い出した。
夢の中で《傍観者》はフリマの会場へ戻っており、居眠りをするアメのいちぞくののぶのぶの横で同じ様に居眠りをしていた。
勿論、更にその横にはピノコがくぅくぅと寝息を立てて居た事であろう。
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