第3章 三人の男達
その日、会社に一番早く着いたのは《いたずら師》だった。
彼は部屋へ入るなり、《知識師》の椅子にいたずらをし、有ろうことか、《装飾師》と《傍観者》の椅子にまで魔の手を伸ばした。
《装飾師》だけ「うわぁ、高い」と声にしたが、《知識師》は無言でさっさと椅子を直し、同じく《傍観者》も無言で椅子を直した。但し、心の中で、
(本当に《いたずら師》は仕事熱心だな)とつぶやきながらである。
そんな三人を眺めながら《いたずら師》は
「昨日、NOSのエクセールとワド、取りましたよ、ちょー楽勝っすよ」と言い、
「早く、オフィスグリコーゲンよ来~い」
と続けた。
そんな《いたずら師》を2秒ほど見つめた《知識師》は、決意を込めた顔でこう言った。
「オフィスグリコーゲン、来ないと思うよ」
「えっ??」
忽ち涙目になった《いたずら師》は茫然としてその動きを止めた。
「実は、ちょっと気になったんで調べたんですが・・・」
ここからは《知識師》の独断場である。
「そもそもオフィスグリコーゲンはここ渋の谷の街で、始まった事らしいんですよ」
自分を見つめる3対6個の眼を見回しながら《知識師》が続ける。
「百年位前の事らしいんですが、当時世の中には無気力と虚無感、厭世感が蔓延していたんだそうです」
「へえー、今とは大違いですね」と《装飾師》が受ける。
「その空気を払拭するために、ある三人の男達が立ち上がったと云われています」
「三人の男達が!」
「格好いいなぁ」
《装飾師》と《傍観者》がまたまた受ける。
「ところが!」
調子の上がった《知識師》の話はまだまだ続く。
「目標を達成した時に届けられるオフィスグリコーゲンに人々はやる気を見せ始めたんですが、だんだんオフィスグリコーゲンだけが目当てになり、そのための努力が疎かになっていったんです」
「人間って結果だけを求める生き物ですからね」
少し寂しそうに《装飾師》が続ける。
「3人の男たちも何か思うところがあったのか、やがてこの風習は廃れていきました」
「なんか、悲しい話ですね」
「ところが!」
静まり返った部屋の中に《知識師》の声が響く。
「オフィスグリコーゲンが人々に届かなくなって何年か過ぎた頃、オフィスケーキが届き始めたんです」
「オフィスケーキ!?」
《知識師》を除く三人の声が重なりあい、壁にぶつかって四方へと霧散した。
「ええ、こんな日記みたいなものを記録の底から見付けました」
そう言って《知識師》は自分の顔の前に半透明のスクリーンを出現させ、古い記録を表示させると裏返して皆に見せた。
『201X年 4月4日 先生がオフィスケーキを持って来てくれた。オフィスグリコーゲンもいいけど、やはりオフィスケーキのほうが美味しい❤』
「おーっ!」
「よくこんな古い記録を見つけましたね」
《知識師》を見つめる《装飾師》の眼差しが尊敬の念に染まった。
「思うに、三人の男達、あるいはその内の一人かもしれないけど、人々を見捨てたままでは置けなかったんでしょうね、きっと。しかし、貰えた人は数える程だと言うし・・・」
頬を心持ち赤らめた《知識師》が憶測を述べる。
「しかしこの三人の男達って、いったい何者だったんでしょうね?」
「先に生まれたって書いてあるから、たぶんお爺さんじゃないですかね」
「そうか、お爺さんか・・・」
皆の頭の中に優しそうな三人のお爺さんの影が通り過ぎた。
「♪ケーキ、ケーキ、オフィスケ~キ」
無邪気に歌い始めた《いたずら師》を見つめる三人の眼には、優しさに満ちた慈愛の色が浮かんでいた。
人工太陽の日差しが半球型のドーム越しに傾き始めた頃、今日の業務が終わった。
すっかりご満悦な様子の《いたずら師》が鼻歌交じりに部屋を飛び出して行き、《知識師》と《装飾師》も満足げな顔で後に続いた。
一人取り残された《傍観者》は暫くマウスをコロコロ転がして遊んでいたが、やがて「良いな、オフィスケーキ」とつぶやくと、そっと部屋を出た。
地上に降りた《傍観者》は
(ケーキを食べるとヒゲに生クリームが付いちゃうんだよな。でも、それを最後にペロペロと舐めるのがまた、たまらなく美味しいんだよなぁ・・・)
などと考え考え歩きだしたので、またまたヒゲを付け替えるのを忘れていた。
2011年4月5日火曜日
2011年4月2日土曜日
「傍観者の小さな冒険 彼の地にて」
第Ⅱ章 みんなの家と傍観者の小さな箱
《傍観者》が目覚めると、そこは小さな橋の下の見覚えのある小さな箱の中だった。
たっぷりと日が暮れた暗闇の中で《傍観者》が伸びをしようとしたとき、計っていたかのように現れた《知識師》がこう言った。
「今日は僕の家に連れてってあげるよ」
「俺様の城に先に連れて行こうと思ってたのに」
僅差で現れた《いたずら師》が黒い羽をバタつかせながら喚いたが、《知識師》の
「先に僕の家に行って、その後、《いたずら師》の家に行けばいいよ」という言葉に、しぶしぶ矛先を収めた。

悠々と空を飛んでいく二人に遅れまじと、長い尻尾を振りながら一生懸命走り続けた《傍観者》は、《知識師》の家に入ると思わず、
「うわぁ」
と声をあげた。
そこは毛脚の長い絨毯が敷き詰められたとても広いお屋敷だった。
赤々と炎を揺らす暖炉に、天蓋付きのベット、高級そうなピアノに猫脚のバスタブまである。
前脚で絨毯のふかふかの感触を味わっていた《傍観者》に
「その内、和風の家にしてみるつもりなんだ」
と《知識師》が言う。
《知識師》の家で我が物顔でドタバタと走り回っていた《いたずら師》が
「今度は俺様の城へ来るのだ。俺様の城はもっともっと金が掛かっているぞ」
と横槍を入れた。
黒い羽をバサバサと揺らしながら空を飛んでいく《いたずら師》と、茶色い羽をパタパタさせながら飛んでいく《知識師》を追いかけて、またまた《傍観者》はひたすら草原を駆けていった。
家の前で待っていた二人にやっと追い付いた《傍観者》に
「さあ、俺様の城をとくと堪能するがよい」
と《いたずら師》が叫ぶ。
恐る恐る家の中に入った《傍観者》は、思わず、
「なに、これ?」
と声をあげた。
そこは《知識師》の家と負けず劣らずとても広いお屋敷だったが、部屋中にカラフルな四角い置き物が無秩序に置かれ、やたら椅子ばかりが多い部屋だった。
よく見るとそれらの間にとても大きな宝石が無造作に転がっており、部屋の真ん中にはひと際大きなダイヤモンドが鎮座ましましていた。
「そのダイヤはとても高くて、まさに俺様にぴったりの代物だな」
と嘯く《いたずら師》の声は《傍観者》の耳には届いていなかった。
なぜならその時《傍観者》は、一抱えもあるギラギラと輝くダイヤモンドと、同じように眼をギラギラとさせながら、にらめっこの真っ最中だったからである。
いつまでも眼をギラつかせている《傍観者》に痺れを切らしたのか、
「さあ、次は《装飾師》の家に行こうよ」
と《知識師》が言った。
(また、走るのか)と思いながら2人の影をを追い求めて駆け続けていた《傍観者》は、彼らがある家へ向かって高度を下げ始めたのを眼にしてほっとした。

「ようこそ僕の家へ、《装飾師》です。よろしくね」
三人を出迎えてくれた《装飾師》の姿を見て、《傍観者》は声にならない声をあげた。
(なんて綺麗な生き物なんだ!)
黄金色に輝く細身の体に、墨痕鮮やかな縞を持つ《装飾師》は、透き通るような薄い羽をフルフル震わせながら三人を家の中に迎え入れた。
そこはあまり広くなく家具も少ししかないが、綺麗に片付けられた清潔そうな部屋だった。
「まだ、何もなくて・・・」
「生まれたばかりだもの、しょうがないよ」
「俺様の城が一番立派だな」
「色々揃えたいとは思っているんですが・・・」
「大丈夫だよ、知らない間に集まるもんだから」
「今度はダイヤの城でも建ててやるか」
三人がそんな会話を交わしている間《傍観者》は、《いたずら師》の家にあったダイヤを自分の寝床に置いた様を想像して悦に入っていた。
「そうだ、良いことを教えてあげるよ」
《知識師》が手にした厚い本を捲りながら続けた。
「これで三人の家や、今いる処へ好きな時に瞬間的に移動できるようになるし、そこから自分の家にもすぐ移動出来るようになるよ」
「本当に?」
「本当だよ」
教えられた通りに三人と別れ瞬間的に自分の寝床へ戻ってきた《傍観者》は、
(お金が貯まったら、この小さな箱の中に渇いた干し草をいっぱい敷き詰めるんだ)
と思いながら深い眠りに落ちって言った。
ピクッピクッと動いていた尖った耳がその動きを止めた頃、《傍観者》は大きなダイヤの夢を視ていた。
《傍観者》が目覚めると、そこは小さな橋の下の見覚えのある小さな箱の中だった。
たっぷりと日が暮れた暗闇の中で《傍観者》が伸びをしようとしたとき、計っていたかのように現れた《知識師》がこう言った。
「今日は僕の家に連れてってあげるよ」
「俺様の城に先に連れて行こうと思ってたのに」
僅差で現れた《いたずら師》が黒い羽をバタつかせながら喚いたが、《知識師》の
「先に僕の家に行って、その後、《いたずら師》の家に行けばいいよ」という言葉に、しぶしぶ矛先を収めた。
悠々と空を飛んでいく二人に遅れまじと、長い尻尾を振りながら一生懸命走り続けた《傍観者》は、《知識師》の家に入ると思わず、
「うわぁ」
と声をあげた。
そこは毛脚の長い絨毯が敷き詰められたとても広いお屋敷だった。
赤々と炎を揺らす暖炉に、天蓋付きのベット、高級そうなピアノに猫脚のバスタブまである。
前脚で絨毯のふかふかの感触を味わっていた《傍観者》に
「その内、和風の家にしてみるつもりなんだ」
と《知識師》が言う。
《知識師》の家で我が物顔でドタバタと走り回っていた《いたずら師》が
「今度は俺様の城へ来るのだ。俺様の城はもっともっと金が掛かっているぞ」
と横槍を入れた。
黒い羽をバサバサと揺らしながら空を飛んでいく《いたずら師》と、茶色い羽をパタパタさせながら飛んでいく《知識師》を追いかけて、またまた《傍観者》はひたすら草原を駆けていった。
家の前で待っていた二人にやっと追い付いた《傍観者》に
「さあ、俺様の城をとくと堪能するがよい」
と《いたずら師》が叫ぶ。
恐る恐る家の中に入った《傍観者》は、思わず、
「なに、これ?」
と声をあげた。
そこは《知識師》の家と負けず劣らずとても広いお屋敷だったが、部屋中にカラフルな四角い置き物が無秩序に置かれ、やたら椅子ばかりが多い部屋だった。
よく見るとそれらの間にとても大きな宝石が無造作に転がっており、部屋の真ん中にはひと際大きなダイヤモンドが鎮座ましましていた。
「そのダイヤはとても高くて、まさに俺様にぴったりの代物だな」
と嘯く《いたずら師》の声は《傍観者》の耳には届いていなかった。
なぜならその時《傍観者》は、一抱えもあるギラギラと輝くダイヤモンドと、同じように眼をギラギラとさせながら、にらめっこの真っ最中だったからである。
いつまでも眼をギラつかせている《傍観者》に痺れを切らしたのか、
「さあ、次は《装飾師》の家に行こうよ」
と《知識師》が言った。
(また、走るのか)と思いながら2人の影をを追い求めて駆け続けていた《傍観者》は、彼らがある家へ向かって高度を下げ始めたのを眼にしてほっとした。
「ようこそ僕の家へ、《装飾師》です。よろしくね」
三人を出迎えてくれた《装飾師》の姿を見て、《傍観者》は声にならない声をあげた。
(なんて綺麗な生き物なんだ!)
黄金色に輝く細身の体に、墨痕鮮やかな縞を持つ《装飾師》は、透き通るような薄い羽をフルフル震わせながら三人を家の中に迎え入れた。
そこはあまり広くなく家具も少ししかないが、綺麗に片付けられた清潔そうな部屋だった。
「まだ、何もなくて・・・」
「生まれたばかりだもの、しょうがないよ」
「俺様の城が一番立派だな」
「色々揃えたいとは思っているんですが・・・」
「大丈夫だよ、知らない間に集まるもんだから」
「今度はダイヤの城でも建ててやるか」
三人がそんな会話を交わしている間《傍観者》は、《いたずら師》の家にあったダイヤを自分の寝床に置いた様を想像して悦に入っていた。
「そうだ、良いことを教えてあげるよ」
《知識師》が手にした厚い本を捲りながら続けた。
「これで三人の家や、今いる処へ好きな時に瞬間的に移動できるようになるし、そこから自分の家にもすぐ移動出来るようになるよ」
「本当に?」
「本当だよ」
教えられた通りに三人と別れ瞬間的に自分の寝床へ戻ってきた《傍観者》は、
(お金が貯まったら、この小さな箱の中に渇いた干し草をいっぱい敷き詰めるんだ)
と思いながら深い眠りに落ちって言った。
ピクッピクッと動いていた尖った耳がその動きを止めた頃、《傍観者》は大きなダイヤの夢を視ていた。
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