少し肌寒さを覚えながら小さな橋の下の小さな箱の中で目覚めた《傍観者》は、いつもと違う周辺の景色に気が付き茫然とした。
(雨が降っている・・・)
曇天の闇夜から盛んにしとどに雨が降りそぼっている。
(彼の地でも雨が降る事が有るんだ・・・)
初めて目にする異邦の地での雨模様に《傍観者》は時を忘れ、水煙に霞む草叢を、そして水量が増えた小さな川の水面を飽きる事無く眺め続けていた。
ふと、何者かの気配を感じ取り振り返った《傍観者》は、橋桁の後ろに半身を隠す様に佇む小さな白い影を見咎めた。
「あっ!子ネコ・・・」
あどけなさの残る顔付きに円らな瞳が印象的な小さな小さなネコが、《傍観者》の事をじっと見詰めていた。
何故か狼狽してしまった《傍観者》は如何して良いか分からず、その子ネコを見詰め返していたが、やがて意を決して近付いて行った。
「何処から来たの?」
《傍観者》が発した問いに白い子ネコは短く鳴くだけであった。
「ニィ・・・」
雨に濡れたのか、子ネコの寒そうに震えている様子に気付いた《傍観者》は、
「そこに居ると濡れちゃうからこっちにおいでよ」
と言い、自分の寝床にしている小さな箱へと導いてあげた。
「今何か食べる物を買って来てあげるよ」
そう言い残した《傍観者》は、大急ぎでネコカイ牧場へと向かった。
ネコカイ牧場でアメと交換してネコ用のミルクを手に入れた《傍観者》は、小さな橋の下へ帰って来て小さな箱を覗き込み、子ネコの姿を確認すると安堵に胸を撫で下ろした。
「良かった、未だ居た!」
《傍観者》がミルクの皿を差し出すと、子ネコは余程お腹が空いていたのか、貪り付く様にそれを飲み干した。
お代わりしたミルクを今度はゆっくりとぴちゃぴちゃと舐め終えた子ネコは、安心したのか小さな箱の中で丸くなると寝息を立て始めた。
(さて、如何したものか・・・)
自分だけで考えて居ても埒が明かないので、《傍観者》は《いたずら師》に意見を尋ねてみる事にした。
《傍観者》が重厚なドアを開けて部屋の中に入ると、どたどたと走り回っていた《いたずら師》が振り向いてこう言った。
「俺様はこれから雨パーティーに出掛けるから忙しいのだ」
「子ネコが・・・」
《傍観者》が言い切らない内に《いたずら師》が続けた。
「雨だからアメオス(アディオス)」
掻き消す様に姿を消して行く《いたずら師》を見守っていた《傍観者》は、外に出ると雨空を見上げた。
関心の無い出来事には全く興味を示さないと言う《いたずら師》の性質を熟知していた《傍観者》にとっては予想通りの展開だったので、その口元に思わず苦笑いが浮かんだ程であった。
(《知識師》にも尋ねてみよう)
と次の行き先に照準を定めた《傍観者》は雨の中へ飛び出した。
外にまで騒がしさが伝わるその家の立派なドアを開けた《傍観者》を、所狭しと駆けずり回るたぬき達とてんてこ舞い状態の《知識師》が出迎えた。
色々な物が散らかった部屋の状態と一時もじっとして居ない腕白たぬりん達を交互に眺めていた《傍観者》は、
(これは話を聞いてもらうどころじゃないな)
と思い、次は久しぶりに《装飾師》の家を訪ねる事にした。
普通のドアを開けて《装飾師》の家に入った《傍観者》の眼には、椅子とテーブルだけが置かれた誰も居ない部屋が映った。
(やはり居ないか・・・)
がらんとした人気の無い部屋で簡素な椅子に座り一休みした《傍観者》は、雫を垂らすピンと張ったヒゲを前脚で擦りながら窓枠に切り取られた雨に煙る夜空を眺めた。
ドアを開けて雨脚の強さに辟易しながら《傍観者》は最後の行き先を決めた。
(ちょっととぼけているけど、彼の地の番人に聞いてみようっと)
《傍観者》が彼の地の番人の所へ向かった後には閉め忘れたのか、開けっ放しの状態のドアが残っていたが、何処からか一陣の柔らかな風が吹いて来ると音も無くすーと閉まって行った。
後には間断無く降り続く雨と、それに全ての音を呑み込まれた彼の地の風景だけが残っていた。
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