これは、渋の谷の街で働く四人の男達の愛と青春の旅立ち、ではなく、少しの愛と青春(んっ?青春)の物語である。
登場人物は主に四人。
一人目は、《いたずら師》。彼は《いたずら師》の家に生まれ、《いたずら師》として育てられ、今や立派な《いたずら師》として旅立とうとしているところである。
二人目は、《知識師》。彼は《知識師》の家に生まれ、《知識師》として育てられ、今や立派な《知識師》として旅立とうとしているところである。
三人目は、《装飾師》。彼は《装飾師》の家に生まれ、《装飾師》として育てられ、《装飾師》としてのキャリアを積み重ねてきた今や一流の《装飾師》である。
四人目は、《傍観者》。彼は橋の下に生まれ、橋の下で育ってきた、普通のにゃこである。
第1章 西暦2111年3月某日
その日はこんな風に始まった。
いつも通りに《傍観者》が会社に着くと、先に来ていた《いたずら師》がおもむろに一枚の紙を掲げてこう言った。
「取りましたよ、NOS(National Office Specialist)のPowerful Point(パワフルポイント)2107」
「えっ、いつの間に?」
そう言った《傍観者》のヒゲは心持ち青ざめていたかもしれない。
「取ったんですか、すごいですね」
後から入って来た《装飾師》が《いたずら師》に声を掛けた。
「チョー楽勝っすよ」
嬉しそうに破顔しながら《いたずら師》は隣りの席の《知識師》の椅子にいたずらを始めた。
勘違いしないで欲しい。《いたずら師》にとって、いたずらは仕事なのであり、つまり彼は誰よりも早く仕事を始めた真面目な男なのである。
少し遅れて会社へやって来た《知識師》が慣れた様子で椅子を直しながら「取ったんだ」と少し寂しそうな顔をしながらつぶやいた。
そう言う《知識師》も来週初めにNOSのExcale(エクセール)2107とWado(ワド)2107の試験を控えて毎日遅くまで残って勉強している、頑張り屋さんなのである。
「早くオフィスグリコーゲン届かないかな~❤」
期待に胸を膨らませている《いたずら師》を横眼で見ながら《傍観者》は心の中でこっそりつぶやいた。
(可哀想に。百年位前には、ここ渋の谷の街にもそんな風習があったらしいが、今ではもう聞かなくなって久しいというのに・・・)
またまた勘違いしないで欲しい。《傍観者》にとって、傍観することは仕事なのであり、つまり彼は職務に忠実に従ったまでである。
「さあ、仕事仕事!」
部長がこう言いながら部屋に入って来たので、四人は席について仕事を始めた。
つまり、《いたずら師》はいたずらを、《知識師》は膨大な量の知識を吸収し、《装飾師》は人間の外皮を覆うパワースーツの企画書を練り始め、《傍観者》は世の中を傍観し始めたのである。
因みに、《装飾師》はこの会社の業務が終了してから別の会社へ出向して、そこでも働くという非常に頑張り屋さん、頑張り屋さんその二なのである。
「さあ、お昼だ」
「今日も、四代目大臣の弁当にしよう」
「今日は帆立御飯にしよう・・・」
お昼になると皆好き勝手なことを言いながら四代目大臣へと赴いた。
「四代目大臣」とは、会社のすぐそばにある創業百年を超える、老舗中の老舗の弁当屋である。
百年前から一個四百円(帆立御飯は五百円)という噂があるが、本当だろうか?
各自弁当を買い、会社へ戻り電子レンジで温めた。
「この電子レンジって、百年前から使っているって聞きましたが本当ですかね?」と《装飾師》が《知識師》に尋ねた。
「んー、本当みたいですよ。ただ、百年前に既にだいぶ古かったらしいから正確には百年プラス十数年じゃないですかね」
にこやかに答える《知識師》を見ながら《傍観者》は(流石、《知識師》は何でも知っているな)と思ったが、彼は《傍観者》なので思っただけにとどめて置いたのは言うまでもない。
渋の谷の街を覆う半球型のドーム越しの人工太陽の日差しが、西に四十五度傾いた時に業務終了となる。
「お疲れさまでした」と、まず《装飾師》が会社を後にした。
前にも述べたが、彼はこの後、出向先での仕事が残っており本当に「お疲れさま」なのである。
続いて、《いたずら師》が清々しい顔をして帰って行ったが、彼はまた黙ってNOSの試験を受けるかもしれないので、今後とも目が離せない存在である。要チェックや、彦一。
《知識師》は来週初めのNOSの試験に向けて今日も残業する模様だ。彼も「お疲れさま」なのである。
《傍観者》は部屋の隅にあるホワイトボードの後ろに隠れて前脚で顔を洗い始めた。
そして、小一時間ほど《知識師》を傍観するとそっと部屋を後にした。
反重力エレベーターで六十五階から一階まで九秒足らずで降りた《傍観者》は、仕事用のヒゲを顔から取り外し、専用のアタッチメントケースに丁寧に仕舞い、代わりにプライベート用のヒゲを取り出し慣れた手付きで装填すると、雑踏の中に静かに紛れ、そしていつの間にか消えていった・・・。
とても面白い切り口のブログですね。連続小説みたいで、これからもちょくちょく覗かしてもらいます。装飾屋でした。
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