森に到着した《傍観者》は、彼の地の番人が現れないので、おかしいなと思いながら更に奥へと歩を進めてみた。
雨だと言うのに人々が寛いでいる公園を通り過ぎると、辺りは段々人気が無くなり裏寂しい風景へと変容していった。
「・・・・・・」
言葉を失ったかの様に黙りこくった《傍観者》がそろりそろりと前進して行くと、やがて前方に彼の地の番人の姿がぼんやりと見えて来た。
「こんな森の奥に居たんだ」
《傍観者》が声を掛けると彼の地の番人は、
「アメは好きだけど雨は苦手ぞよ、しかし此処まで来るとは流石、黒い生き物ぞよ」
と返した。
「相談に乗って欲しいんだけど・・・」
と言う《傍観者》の問いに彼の地の番人は常套句を掲げた。
「アメくれよ~」
彼の地の番人にアメを渡した《傍観者》は、相談事の前に周囲を見回すとこんな質問をした。
「此処が番人さんの住処なんだね」
小さな椅子を取り出しながら彼の地の番人は、鹿爪らしい口調で囁いた。
「他の人には秘密ぞよ」
「番人さんて・・・お化けだよね?」
「お化け?全然似ても似付かないぞよ」
「・・・そうそう、相談事なんだけど」
「わしの知らない事はないぞよ」
「ネコが・・・」
「眼の前に居るぞよ」
「?・・・此処には居ないよ」
不思議そうな顔付きの《傍観者》と不可思議な表情を浮かべた番人が互いに見詰め合った。
「うちに子ネコが迷い込んで来たんだけど、如何したら良いかな?」
「飼ってやれば良いぞよ」
「ちゃんと飼えるかな?」
自信無さげな《傍観者》がそう問い返すと、彼の地の番人は帽子の鍔から雨の滴を滴らせながら提言した。
「ミルクを定期的に与えて、良く遊んであげれば大丈夫ぞよ」
「そっか・・・」
まだ迷っていた《傍観者》の背中を番人の次の言葉が後押しした。
「それに段々芸も覚えて行くぞよ」
「そっか❤じゃあ飼う事にするよ。ありがとう、番人のおじさん」
「失礼ぞよ、わしはまだお兄さんぞよ」
見た目からは全く年齢が推測できない彼の地の番人は、やんわりと苦言を呈した。
「へえー、そうなんだ。分かったよ、おじさんみたいなお兄さん」
「それはもっと失礼ぞよ~ぞよ~ぞよ~」
彼の地の番人の言葉尻が空しく木霊を繰り返した時には《傍観者》の姿は消えていた。
小さな橋の下へ戻って来た《傍観者》の気配に気付いたのか、小さな箱の中で眠っていた子ネコが眼を開けた。
箱の外へ出て来た子ネコは《傍観者》を見上げて消え入りそうな鳴き声を上げた。
「ニィ・・・」
「ただいま」
ミルクに満たされた皿を用意した《傍観者》は、それを子ネコの前に置いてやり、そっと告げた。
「此処にずっと居ると良いよ、一緒に住もうよ」
「ニィ・・・」
先程と同じ鳴き声を発した子ネコであったが、《傍観者》には嬉しさが滲み出たそれに聞こえた。
美味しそうにミルクを舐め始めた子ネコを前にして《傍観者》は一人呟いた。
「名前を付けてあげなくちゃ」
束の間逡巡した《傍観者》の頭の中に、ある名前が浮かんだ。
「女の子みたいだから、・・・ピノコしよう!」
満腹になったピノコは《傍観者》の長い尻尾に戯れ付き始めた。
やがて遊び疲れたピノコを小さな箱の中に寝かし付けた《傍観者》は、寝心地が良さそうな椅子を選ぶとその上に丸くなり今日有った出来事を思い返していた。
そして、すやすやと眠るピノコの顔を一瞥すると、安心したのか深い眠りへと落ちて行った。
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